SSS interview 阿久根聡子 「都市はわたしたちのダンスフロア」
SSSは、様々な想いが持ち寄られる場所です。そうあるために、実行委員会形式での運営がなされています。このSSS Interviewでは、キュレーターを始めとする実行委員会メンバーとの会話を読み物としてお届けします。これは、プロジェクトの奥行きをどのように広げていけるか?という試みでもありますし、もし気になるトピックがあったらSSSの現場にいるメンバーに声をかけてほしい!という呼びかけでもあります。ロングインタビューではありますが、お読みいただけますと嬉しいです。
目次
好きなことがそのままに意味を帯びていくということ
-「都市はわたしたちのダンスフロア」のそもそものところの話をさ、やっぱりなんかちゃんとしておいた方がいいと思ってたんですよ。
そこは、これまであまり言葉にしてちゃんと語ったことがないので、うまく話せるかちょっと不安なんですけど、Zineとしての「都市はわたしたちのダンスフロア」の始まりは、ベトナムで。
-ベトナム。
for Citiesという、都市体験のデザインスタジオで、都市をハード面からではなくソフト面からデザインしていこうっていう活動してるチームがいるんですけど、そこの広報営業という形で関わっていた時期があって。
-代表の2人は、SSSに遊びに来てくれていましたよね。
そうそう。その2人が水先案内人になって、ベトナムの街にダイブして何かをアウトプットしていくというプロジェクトがあったんですよ。参加者を公募したら日本に限らず20人くらいが集まって、それぞれのテーマで活動をしていったんです。例えば、ベトナムのストリートアートを調べてまとめたりとか。私は広報営業の立場だったから、ただの夏休み気分だったんですけど、「いやいや、さとこも何かテーマを持ってやるんだよ」と言われて、え、そうなの!?って。
-あははは。油断してたのね。
やっぱり滞在中の限られた時間だから、それだけのために特別なことをするよりも、普段からやっているクラブ行ったり呑んだりするのは欠かせないなって。
-やっぱりちゃんと遊びたいって思うんですね。
そう。でも、なんかみんな真面目に取り組んでいるのに、自分だけ、「呑み・クラブ・音楽」みたいなことをやるのは、掲げるテーマとしては値しないんじゃないかという恥ずかしさもあって。
-へー、意外。その恥ずかしさがあったんだ。
ありました、ありました。やっぱりなんか、ちょっとチャラいとか遊び人とか思われちゃうかなと。もちろんずっと好きなことだけど、それを好きだって表現することにちょっと抵抗がそれまではあって。でも「それ、さとこにしかできないよ」って言われて、「じゃあやるか」と。自分個人の動きとしては今までの旅行と変わらなくって、好きなBARをホッピングするみたいなことだったんですけど、そこに、それがどういうふうに街に作用してるのかとか、人にどのような文化をもたらしてるのかみたいなこともちょっと頭に入れながら、ただ遊ぶだけじゃなくって、いろんな文献とかも探しつつ、ちょっと今までの旅とは違う見方で都市を見てみたというのが始まりでした。
-今までずっと味わってきていて、好きでいたことを、より深めてみたという感じですよね。
そうですね。それが、自分にとってはターニングポイントだったんで、形に残してみようかなって。えっと確か、ゴールデンウィーク明けの月曜日にベトナムから成田に着いたんですけど、現地の熱気というか、やっぱり日本に帰った瞬間からどんどん日本モードに自分が引きずられていくのがわかっていたので、なんか鉄は熱いうちに打て!じゃないですけど、早く形に残さないと、という使命感に駆られるような気持ちで、帰国してすぐ、デザインをやってくれる人を紹介してもらったりとか、これまでに呑みながら知り合った友達にワーッと急に声をかけて。
-最初から最後まで、音楽と酒によって生まれている営みですね。
で、その週の土曜日に野毛っていうエリアでパーティーをやる予定があったので、そこで即売会したんですよ。
-え、帰国してから1週間で一気に形にして、届けるところまでやってたんですね。
はい、バタバタと。それが、Zineとしての『都市はわたしたちのダンスフロア』の第1弾。うわー、今見ると、めっちゃ恥ずかしい。でもまあ、販売することによって、会話が生まれたんですよね。手にとってもらった人から「私もここ行ったことがある」とか「これは何?どういうこと?」とか、「私も踊るのが実は超好きで」とか。会話が生まれたときに結構いろいろスパークして、なんか今まで踊るとか夜遊びをするとか、好きなこととして語るには恥ずかしいと思ってた部分を表現してみると、なんだ、意外とみんな好きじゃんという感覚が生まれて、この活動は続けてみたいなって。
音楽も、学びも、閉じ込めたくない
-会話が生まれるというのは、とても大切なことのように思います。ちょっと話を戻しちゃうんですけど、その踊り続けていることの「恥ずかしさ」みたいなところをもう少し聞いておきたいんですね。自分のなかで当たり前すぎて、そこに社会的な価値や意義があると思えなかったという感じなんですかね?
うん、そうね。ありましたね。なんか、あんまり年齢の話にしたくないけど、やっぱり周りを見てくとライフステージが変わっていく中で、なんか自分だけまだ遊んでることに、ちゃんとしていない恥ずかしさを感じるときが、いまだにありますし、わたしこのままでいいのかなとか思っちゃうこともあって。
-そっか、でも行っちゃうんですよね、ダンスフロアに。
うん。やっぱり私が好きなのはこれしかないわ、と。結局いま周りにいるのも呑んだり踊ったりするなかで知り合った人たちですし、生まれも育ちも全然違うのに彼ら彼女らに救われている部分がたくさんあって。そこを否定はしたくないなと。
-海外のクラブとかって、結構高齢な人も混ざって踊っていたりするし、行政とか大きな企業とかの日本で言うと結構カタイ職業の方々もそうやって遊んでいたりすると思うんですけどね。それこそ『都市はわたしたちのダンスフロア』という意識が根付いている感じがあって、大人が遊んでいる背中を感じられる社会って良いなって思っちゃいます。そういえば、『都市はわたしたちのダンスフロア』って、名前としては長いじゃないですか。「わたしたちの」って入れている感じとかも気になっちゃいます。
そうですね、なんでだろな。踊る場所の前段階に、やっぱり音楽を気持ちよく聞くために友達と集合するためのBARがあったり、ちょっと軽く一杯飲むコンビニの駐車場があったりとか、なんかそういうのも全部含めて夜をつくってるというか、大きく言えば文化をつくっていると思っていたので、なんかただのクラブ案内にはしたくなかったんですよ。わたしたちが、わたしたちの手で、ダンスフロアを作っているんだ、というか。
-そのあたりにスゴく共感していて、聞き手と言いつつちょっと自分の話を挟んじゃうと、ずっと教育の仕事をしてきたわけですけど、「都市はわたしたちの学校」とでも言いたい気持ちがあって。学びといったら学校や塾といった感じで、教育というものを、ひとつの場所や時間や制度に閉じ込めておきたくないんですよね。そのあたりのニュアンスは近いものを感じます。
めちゃくちゃ近いですね。もうね、物理的にダンスフロアが都市に広がっている光景も、目の当たりにしてきたんですね。例えば、お店の窓が全開で、お店でかかっている音楽が街中に響き渡ってて、みんながアスファルトのうえで踊ってるみたいな。
-いいですねえ。なんか思うんだけど、そもそもヒップホップとかもそうだけど、ブロックパーティとかそうだけども、屋外とか路上で奏でられる音楽ってあるはずだよねとは良く思います。
うん。思い出したように話すんですけど、自分のInstagramを見返してみると、「この洞窟でパーティやったら良さそう」とか「ここのパチンコ屋はベルリンのクラブに似てる」とか「この橋の下でテクノかけたい」とか、もう昔からずっと投稿していて。
-変わってないですね。
そう。なにも変わってないんですけど、これを好きって言って良いって思えるようになるまで、すごく時間がかかった感じでした。
-とはいえ、そういう時期を過ごしてきたからこそ、感じ取れたり考えたりすることができるような気もしますけどね。
なんだろう、許されてるからやるとか許されてないからやらないとかじゃなくって、なんかそこそこ微妙な白でも黒でもない、ややグレーみたいなところを自分で見つけて遊べる人は結構遊び上手だなと思ってて。言語化するのがなかなか難しいのですが、だからこそ考え続けたいなと思っています。
-そうねえ。なんか都市には、というか社会には遊びは必須だと思っているんだけども、それを、遊んでこなかった人たちだけで手掛けていくことの限界を感じているんですね。特に東京で。そうしたときに、しっかり人生をかけて遊んできたような人たちが、遊びを生み出す側に向かっていくようなことに希望を感じてしまう次第です。だから、文化施策の中枢に、もっとその遊び上手な人たちが入っていくような状況にならないかなって思います。
足元から生まれる、足元にたむけられる音楽
-直近で言うと、阿久根さんが前回のSSSで呼んでくれた、OMK(YOUNG-G、MMM、Soi48)さんのDjもスゴかったですね。
OMKさん目当ての人も、SSS目当ての人も、たまたま通りかかった人も入り交ざって、最高でしたね。あそこでしかない出会いもあったように思います。
-通りすがりの高校生も踊ってましたもんね。なんか振り返りたいことは山々なんですけど、「ええじゃないか、ええじゃないか」と曲が流れたときに、みんなで踊りながらこれはスゴイことだぞ、と。
スゴかったですよね。昔、ロンドンに住んでたんですけど、西洋的な音楽に対する憧れみたいなものはずっとあって。かたや自分が生まれ育ったアジアの音楽って、ダンスフロアではかからなかった。だから、彼らが関わっていた雑誌『STUDIO VOICE』のアジア音楽シーン特集はホントに衝撃を受けて、発売されたのはもう6年前ですけど、最近になってようやく理解が追いついてきたところです。
-うん、なんか、なんだろう。こう話をしていると、夜遊びという自分が自然とやっていたことを肯定的に捉えることができていく話と、アジアという自分の足元の音楽を見直していくという話は、どこか似てくる感じがありますね。
それは、そうですね。かっこいいと思うものを拡張したり深めたりすることを、彼らはホントに、現地でしっかり足で情報を取りにいっていて。あたまと心と体で考えるというか、音楽に限らずそういう姿勢というものにとてもしびれています。
-ですねえ。あと、なんかちょっと言い方が難しい話になってくるんだけども、一体に何に向けて音を鳴らしているんだろうか?みたいなところは気になっていて。
どういうことです?
-えっと、うーんと、言っちゃえばですよ、ご予算を頂いているからSSSは入場無料で出来ているというところがあるんだけども、じゃあ、だからといって予算元に向けて音をたむけるか、というとそういうわけでもないじゃないですか。
それは、まあそうですよね。
-それをSSSでは望まれているわけでもないんですが、それでまあ、来場をしてくれている、そしてたまたま居合わせた方々に向けて、音をたむける、という話は当然そうですよね。
フロアの状況見て、チューニングしていきますもんね。
-そうそう。で、今回改めて思ったのは、もっとその先にたむけられている音楽というものがあるんだなってことで。
その先?
-そうそう。それが上手く言えないんだけども、その場所や人の歴史とか、目に見えない何かという感じで。なんつーか、まだここにいないもの、もうここにいないものに向けて、もう、たむけるとしか言いようのない感じ。
うん。確かにあの空間に爪痕を残した感じはありましたよね。
-そうそうそう。音楽って、鳴り終わったところが終わりかと言うと、もちろんそうなんだけど、鳴り終わった後もなにか残っているものがあるような気がしました。
Emma Warrenさんに会いに行く
-現在進行系の話ではありますが、阿久根さんが音楽体験や音楽文化というものを考えて実践していくにあたって、Emma Warrenさんから強く影響というかインスピレーションを得ているじゃないですか。そして、今度ついにエマさんを訪ねにロンドンへ飛び立つ予定も決まったという。そのあたりは、SSSに対してもインスピレーションをもたらしてくれる話でもあるんで、ここで少し触れておきたいんですけども。
そうそう。zoomではご挨拶したり会話もできているんですけど、もう直接会いたくなっちゃって。
-どこらへんに、強く心を動かされているんですか?
Emma Warrenさんはイギリス在住の女性ジャーナリストで、最初に話をしてたような「夜遊びやクラブ遊びのことを真面目に語るなんて恥ずかしい」みたいなことを全部「そんなわけないっしょ」と力強く返してくれる人。音楽ジャーナリストって言うよりは、音楽の周辺のコミュニティ形成みたいなところに彼女の関心事はあって、彼女のヒット作になったのが『MAKE SOME SPACE』という本。本国でも既に売り切れているので、これ、実は音楽評論家の柳樂光隆さんからお借りしているものなんですけど。
-おお。
『MAKE SOME SPACE』で語られているのは、東ロンドンにあるライブハウス・クラブ・スタジオを兼ねたTotal Refreshment Centreという場所。元々チョコレート工場だったところに、いまではミュージシャンが集まって、それを聞く人が集まって、良いコミュニティが生まれているんですど、その成り立ちから、そこからどういうアーティストが生まれたのかみたいなところをまとめたものなんですね。
-へー。
それで、その本ができるまでをまとめたZineが『Document Your Culture』。
-タイトルですでにグッときます。
そうそう。音楽好きって言うと、好きなDJやミュージシャンは誰ですか?という話になりがちなんですけど、もちろんそういう側面もありつつ、私が音楽に惹かれているのは、それによってさっきまで他人だった同士が出会っちゃうことだったり、昨日まで無かったような文化が生まれることであるとか、そういうことで。そこが、まさに、彼女の問題意識と重なるんです。zoomでお話させて頂いたときに、「私にとっては好きなことが音楽で、住んでいるのがロンドンだったからだけど、それぞれが自分の好きなカルチャーを記録すればいい」って言っていて、「ガーデニングでもお菓子作りでもなんでも良いけど自分の好きなことを記録することの大切さに気がついて欲しい」って。
-ああ。
だからこのZineでは、音楽のことというよりも、好きなことを記録するためのメソッドが書かれています。
-Emma Warrenさんのどういう想いが、それを突き動かしているんですかね。
やっぱり、お金や権威がある人たちの良いように歴史に残されちゃうし、そもそも、歴史に残らないことだってたくさんあって、例えば「小さいこの商店が私の心の拠り所だった」みたいな話は、個人の単位でもちゃんと記録しておかないと残りようがないっていう。
-ああ。
好きな一節が、「私達は自分の恋人や自分の家族に対して愛してるよ好きだよって話す言語は持ってるけど、自分の好きな場所に対して好きだよって話す言語はなぜか持ってない」というもので。
-うわ。
つい最近も大阪にある味園ビルの閉鎖が報じられましたけど、好きな場所がなくなっていくのをただ傍観するだけだった自分にはすごく響きましたね。あと、これは『Document Your Culture』の後半にあるフレーズなんですけど、「あなたが好きなものを表現するときに、誰の許可も必要ありません。でも、それでも許可がいるとまだお感じですか? そうしたらこれを読んでください。私、Emma Warrenがあなたに許可を与えます」って。
-ぐは。
これ、喫茶店で読んでちょうどいろいろあった時期というのもあって、ワンワン泣いちゃって。それを彼女本人と話したとき、「実はそこの一節は熱血おばさんみたいに思われちゃうかなって最後まで残すか悩んでたの(笑)」って言われたんですけど、とにかく自分の背中を押してくれた本です。
-Emma Warrenさんは、とにかく人をエンパワーしようとしてらっしゃるんでしょうね。阿久根さんは、『Document Your Culture』の翻訳を今手掛けているし、本人に会いにも行くわけで、今後の展開がSSSとしてもとても楽しみです。
またお知らせしていきますね。